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いよいよ!2024年の7月前半ごろに、新紙幣の流通が始まります。新一万円札の肖像は、われらが「渋沢栄一」です。晩年の講演録である『論語と算盤(ろんごとそろばん)』が、渋沢栄一の代名詞として定着してきた感もありますね。
その『論語と算盤』に触れた方は、本文中に『論語』などからの引用が多々あった事に気が付かれたと思います。今回の記事は、そこが気になった方向けの少々マニアックな内容です。
この記事の目次
渋沢栄一と聖人『孔子』, 亜聖『孟子』
渋沢栄一は33歳であった明治6年(1873年)に、明治政府の官を辞しています。いよいよ念願であった実業の道へ進むというタイミングを回想して、こんな言葉を残しました。
◆ 渋沢栄一と『論語』の特別な関係
「それは初めて商売人になるという時、ふと心に感じたのは、(中略)志を如何に持つべきかについて考えた。その時前に習った論語のことを思い出したのである。
出典:『論語と算盤』角川ソフィア文庫版(1-5)より
論語にはおのれを修め人に交わる日常の教えが説いてある。論語は最も欠点の少ない教訓であるが、この論語で商売はできまいかと考えた。
そして私は論語の教訓に従って商売し、利殖を図ることができると考えたのである。」
… このように渋沢栄一は『論語』を座右の書として携え、以降のビジネス(実業家)時代から引退後のフィロソフィー(慈善家・篤志家)時代までを駆け抜けました。
『孔孟(孔子, 孟子)の教え』から渋沢栄一までの系譜
中国の古典である『論語(ろんご)』は、聖人・孔子(こうし)の言行録として知られています。この孔子の教えを祖とした学派の教えを総じて「儒教(じゅきょう)」と呼びます。
江戸時代に官学として採用された「朱子学(しゅしがく)」は、儒教の派生として南宋の儒学者・朱熹(しゅき)が成した学説の体系です。
ところが、渋沢栄一はこの「朱子学」について、聖人・孔子の教えをやたら小難しくした事を問題視しています。「朱子学」が影響した当時の風潮としても、学問は消費階級の武士がなすもので、生産階級の商人や農民らが触れるもので無くなっていました。しかも、金銭や商売を求める事は卑しいので、孔子の教え(道徳)とは相容れないんだと曲解する始末です。
… 日本の経済を発展させようとした渋沢栄一にとって、そんな風潮は打破したかったはずです。そのような経緯から、渋沢栄一は学者(朱子学)を介さずに『論語』を直接読めば良いという立場を取っています。
儒教において孔子は「聖人」と位置づけられていますが、孟子(もうし)はその聖人に次ぐものとして「亜聖(あせい)」と位置づけられています。
『論語と算盤』内(4-7など)でも渋沢栄一が「孔孟の教え(こうもうのおしえ)」と一括りにしているように、本書では『論語』と同じく書物『孟子』からも多くの引用がされています。
※ 各詳細については、私の方で以前にまとめた記事を書きました。
- 渋沢栄一『論語と算盤』のまとめ記事
- 孔子『論語』のまとめ記事
- 孟子『孟子』のまとめ記事
もし詳細が気になる方は、こちらも参照してくださいませ!
『論語と算盤』各章の見出し
渋沢栄一の代名詞になりつつある『論語と算盤』ですが、1916年(大正5年)に初版が刊行された書籍です。
この本は渋沢栄一が記したものではありません。晩年の講演の数々を梶山彬(詳細不明)が編集した、いわば講演録となります。
章立てとしては、本書のタイトルと同じように各テーマを「〇〇と△△」と分類して、全10章 × 90節にまとめられています。
『論語と算盤』 | A. 角川ソフィア文庫 | B. ちくま新書 | |
一 | 処世と信条 | 11節 | 9節 |
二 | 立志と学問 | 10節 | 6節 |
三 | 常識と習慣 | 10節 | 6節 |
四 | 仁義と富貴 | 9節 | 5節 |
五 | 理想と迷信 | 11節 | 5節 |
六 | 人格と修養 | 11節 | 5節 |
七 | 算盤と権利 | 5節 | 4節 |
八 | 実業と士道 | 9節 | 5節 |
九 | 教育と情誼 | 7節 | 5節 |
十 | 成敗と運命 | 7節 | 5節 |
合計 | 90節 | 55節 |
『論語と算盤』の関連本が、今では数多く出版されるようになりました。私はその中でも、この2冊が定番かと思うのでこちらを参照いたします。
前者の「ちくま新書(現代語訳)」は大変読みやすく解説も充実していますが、全訳ではありません。「角川ソフィア文庫」は漢文調の文体に慣れていないと、読み難いかもしれないので一応両方を参照としました。
※ 引用する場合には、番号を振ってあります。予めお手元の本にも整理番号を振っておくのがおススメですよ!
『論語と算盤』で引用された『論語』『孟子』の名言
それでは本題に入っていきましょう。私の調べで『論語と算盤』全10章中に、『論語』48点, 『孟子』23点の引用が確認できました(2023年8月現在)。
… 私が想像していたより、多くの引用数がありました。引用の全てはスプレッドシートにまとめたので、下記の表をご参照ください。
『論語』『孟子』の全引用(スプレッドシート)
こちらの表(スプレッド―シート)の左側に『論語と算盤』の全10章と90節を表記して、右側には引用された『論語』と『孟子』の章句を番号付きで記載しました。
(かなり大きな表なので、PCかタブレット推奨です)
この番号を頼りにすれば『論語と算盤』と『論語』『孟子』の間を、自由に行き来できるかと思います。
聖人・孔子の言行録『論語』からの引用ランキング
『論語』の引用48点については、先ほどの表を参照していただくとします。こちらでは『論語』のどの章句が数多く引用されたかを、ランキング化しました。
※『論語』の章句の番号や引用は、こちらの岩波文庫版を参照いたします。
多くの名言が引用がされていますが、最多3回の章句が確認できました。
『論語』の引用ランキング(章) | 『論語と算盤』の箇所 | ||
3回 | 述而第七 / 7-15 | 不義にして富 | 4-2, 4-3, 6-10 |
里仁第四 / 4-5 | 富と貴きとは | 4-2, 4-3, 8-1 | |
雍也第六 / 6-30 | 仁者は己立たんと欲して | 1-2, 4-4, 5-5 | |
2回 | 衛霊公第十五 / 15-24 | 己の欲せざる所 | 5-6, 7-1 |
為政第二 / 2-4 | 十有五にして | 1-10, 2-6, | |
学而第一 / 1-2 | 孝悌は仁をなすの本 | 7-4, 9-2 | |
述而第七 / 7-11 | 富にして求むべくんば | 4-2, 4-3 | |
述而第七 / 7-22 | 天、徳を予に生ず | 1-3, 3-7 | |
先進第十一 / 11-16 | 過ぎたるは | 1-2, 6-8 | |
泰伯第八 / 8-13 | 邦道あって | 1-5, 4-2 | |
泰伯第八 / 8-7 | 士はもって弘毅ならざる | 1-2, 6-8 | |
八佾第三 / 3-13 | 罪を天に獲れば | 1-3, 5-7 | |
※1回は省略 |
… このランキングを作成していて、興味深い発見がありました!というのも、最多3回の引用があった『論語』の章句は、いずれも渋沢栄一の最晩年の講演『道徳経済合一説』でも引用されているという点ですね。
- 『論語と算盤(ろんごとそろばん)』/ 大正5年(1916年)
- 『道徳経済合一説(どうとくけいざいごういつせつ)』/ 大正12年(1923年)
前述したように『論語と算盤』は、渋沢栄一晩年の講演の数々を編集者がピックアップしたものです。最晩年の演説でも同じ章句を引用していたとは、面白い結果になりました。
(演説の詳細については渋沢栄一『道徳経済合一説』のまとめ記事へ)
先ず紹介する『論語』の引用は、孔子の真意を正しく理解するために重要な箇所となります。
◆ 『論語と算盤』での引用 ①
引用:『論語と算盤』角川ソフィア版, 『論語』岩波文庫版
・「富み且つ貴きは、我において浮雲のごとし(4-2)」
・「我において浮雲のごとし(4-3)
・「不義にして富み且つ貴きは、我において浮雲のごとし(6-10)」
◇ 引用元(『論語』述而第七の十五)
書下し文「子の曰(のたま)わく、疏食(そし)を飯い水を飲み、肱を曲げてこれを枕とす。楽しみ亦(ま)た其の内に在り。不義にして富み且つ貴きは、我れに於いて浮雲の如し。」
訳文「先生がいわれた、「粗末な飯をたべて水を飲み、うでをまげてそれを枕にする。楽しみはやはりそこにもあるものだ。道ならぬことで金持ちになり身分が高くなるのは、わたくしにとっては浮雲のよう〔に、実のない無駄なもの〕だ。」
「疏食を飯い水を飲み、肱を曲げてこれを枕とす。楽しみ亦た其の内に在り」とあるので、孔子は質素な生活を推奨しているようにも一見読み取れます。しかし、文中の「亦た」に深長な意味があるので、注意が必要です。
孔子は義に反した利を戒めていますが、義に合った利を全く否定していません。
◆ 『論語と算盤』での引用 ②
引用:『論語と算盤』角川ソフィア版, 『論語』岩波文庫版
・「その道をもってせざれば、これを得るとも処らざるなり(4-2)」
・「富と貴きとはこれ人の欲する所なり。(中略)これを得れば去らざるなり(4-3)」
・「富と貴きとはこれ人の欲する所なり。(中略)これを得るも去らざるなり(8-1)」
◇ 引用元(『論語』里仁第四の五)
書下し文「子の曰(のたま)わく、富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。其の道を以てこれを得ざれば、処(お)らざるなり。貧しきと賤しきとは、是れ人の悪む所なり。其の道を以てこれを得ざれば、去らざるなり。(以下略)」
訳文「先生がいわれた、富と貴い身分とはこれはだれでもほしがるものだ。しかしそれ相当の方法(正しい勤勉や高潔な人格)で得たのでなければ、そこに安住しない。貧乏と賤しい身分とはこれはだれでもいやがるものだ。しかしそれ相当の方法(怠惰や下劣な人格)で得たのでなければ、それも避けない。(以下略)」
こちらの引用でも、孔子が富や貴い身分を卑しんでいるのではなく、義に反した利を戒めている事がよくわかりますね。
『論語』の名言は数多あれど、中心思想の最高道徳「仁(じん)」についても渋沢栄一は説いています。
◆ 『論語と算盤』での引用 ③
引用:『論語と算盤』角川ソフィア版, 『論語』岩波文庫版
・「己れ立たんと欲して而して人を立て、己れ達せんと欲して人を達す(1-2)」
・「己れ立たんと欲して人を立て、己れ達せんと欲して人を達す(4-4)」
・「仁者は己れ立たんと欲してまず人を立て、己れ達せんと欲してまず人を達す(5-5)」
◇ 引用元(『論語』雍也第六の三十)
書下し文「(前略)子の曰(のたま)わく、何ぞ仁を事とせん。必ずや聖か。堯舜(ぎょう・しゅん)も其れ猶お諸(こ)れを病めり。夫れ仁者は己れ立たんと欲して人を立て、己れ達せんと欲して人を達す。能く近く取りて譬(たと)う。」
訳文「(前略)先生はいわれた、「どうして仁どころのことだろう、強いて言えば聖だね。尭や舜でさえ、なおそれを悩みとされた。そもそも仁の人は、自分が立ちたいと思えば人を立たせてやり、自分が行きつきたいと思えば人を行きつかせてやって〔他人のことでも自分の〕身近にひきくらべることができる、〔そういうのが〕仁のてだてだといえるだろう。」
『論語』で、孔子は他にも「仁」について語っている場面が散見(顔淵第十二の二, 二十二など)されますが、渋沢栄一はこの章句を好んでいたようです。
実は …この章句、『論語』の全512章句の中でもかなり重要な句となります。渋沢栄一は、『仁(じん)』について述べられた、この章句を「論語の眼目といっても可なるほど」と評しています。
(出典:「論語講義(二)」渋沢栄一の同章句, デジタル版「実験論語処世談」徳川家康の対儒教観より)
※『論語と算盤』1-10に引用された「もって進むべくんば~」は孔子の言葉として紹介されていますが、『論語』内で見つける事ができませんでした。(引用としては、一応カウントに入れているのでご留意お願いします。)
亜聖・孟子の言行録『孟子』からの引用ランキング
『孟子』の引用は23点で、もちろん『論語』の48点に比べると少なくはあります。しかしながら、『論語と算盤』を読み進めていくと、あちこちに『孟子』が引用されているので印象に強く残ります。
こちらもランキング化したので、ご覧くださいませ。
※『孟子』の章句の番号や、引用は、こちらの岩波文庫版を参照いたします。
多くの名言が引用がされていますが、最多6回の章句が確認できました。
『孟子』の引用ランキング(章) | 『論語と算盤』の箇所 | ||
6回 | 梁惠王章句上 / 1-1 | 4-1, (5-7), 8-8, 9-5 | |
4回 | 滕文公章句上 / 5-3 | 4-5, 4-7, 5-7, 8-9 | |
3回 | 公孫丑章句上 / 3-2 | 3-6, 6-3 | |
※2~1回は省略 |
最多は『孟子』の巻頭を飾る、梁惠王(りゅうけいおう)との名シーンからです。
◆ 『論語と算盤』での引用 ④
引用:『論語と算盤』角川ソフィア版, 『孟子』岩波文庫版
・「なんぞ必ずしも利を曰わん、また仁義あるのみ(4-1)」
・「上下交も利を征りて厭かず、国危うし(4-1)」
・「苟も義を後にして利を先にすることをせば、奪わずんば厭かず(4-1)」
・「孟子は、利殖と仁義道徳とは一致するものであるといった(5-7)」※
・「奪わずんば厭かず(8-8)」
・「上下交も利を征りて厭かず、国危うし(9-5)」
◇ 引用元(『孟子』梁惠王章句上の一)
書下し文「(前略)孟子対えて曰く、王何ぞ必ずしも利を曰わん。亦(唯)仁義あるのみ。王は何を以て吾が国を利せんと曰い、士・庶人は何を以て吾が身を利せんと曰いいて、上下交利を征(取)らば、而(則)ち国危うからん。
(中略)〔然れども〕苟も義を後にして利を先にすることを為さば、奪わざれば厭かず。(中略)王亦仁義を曰んのみ。何ぞ必ずしも利を曰わん。」
訳文「(前略)孟子はお答えしていわれた。「王様は、どうしてそう利益、利益とばかり口になさるのです。〔国を治めるのに〕大事なのは、ただ仁義だけです。もしも、王様はどうしたら自分の国に利益になるのか、大夫は大夫でどうしたら自分の家に利益になるのか、役人や庶民もまたどうしたら自分の身に利益になるかとばかりいって、上のものも下のものも、だれもが利益を貪りとることだけしか考えなければ、国家は必ず滅亡してしまいましょう。
(中略)〔全部を〕奪い取ろうとするのは、仁義を無視して利益を第一に考えているからなのです。(中略)だから王様、どうかこれからは、ただ仁義だけをおっしゃってください。どうして利益、利益とばかり口になさるのです。」
孟子は遊説を開始して、最初に訪れたのが強国である魏(ぎ)となります。その第3代君主に対して、舌鋒鋭く自説を述べました。この章句は短いのですが、心に残る名言だらけなので渋沢栄一もよく引用したのでしょう。
『孟子』の引用ランキング(語句) | 『論語と算盤』の箇所 | ||
4回 | 滕文公章句上 / 5-3 | 仁をなせば富まず | 4-5, 4-7, 5-7, 8-9 |
2回 | 梁惠王章句上 / 1-1 | 上下交も利を征りて | 4-1, 9-5 |
※1回は省略 |
『孟子』については、章句の他に語句もランキング化しました。最多4回の語句があり、実はこちらも最晩年の『道徳経済合一説』で引用されているのが、また興味深い点となっています。
◆ 『論語と算盤』での引用 ➄
引用:『論語と算盤』角川ソフィア版, 『孟子』岩波文庫版
・「孟子に陽虎の言として、「仁をなせば富まず、富めば仁ならず」とあるがごとき、その一例である。陽虎のごときは、もとより敬服すべき人物ではないが、当時にありては智言として一般から認められていたのである。(4-5)」
・「従来、利用厚生と仁義道徳の結合が不十分であったために、「仁をなせばすなわち富まず、富めばすなわち仁ならず」「利につけば仁に遠ざかり、義によれば利を失う」というように、仁と富とを全く別物に解釈してしまったのは、甚だ不都合の次第である。(4-7)」
・「孟子は、利殖と仁義道徳とは一致するものであるといった。その後の学者がこの両者を引き離してしまった。仁義をなせば富貴に遠く、富貴なれば仁義に遠ざかるものとしてしまった。(5-7)」
・「孟子も、「富をなせば仁ならず、仁をなせば富まず」と言っているから、等しく味わうべき言葉である。(8-9)」
◇ 引用元(『孟子』滕文公章句上の三)
書下し文「陽虎曰く、富を為さんとすれば仁ならず、仁を為さんとすれば富まずと。」
訳文「むかし、〔魯の季氏の家臣〕陽虎は『金持ちになとうとすれば仁者になれないし、仁者になろうとすれば金持ちになれない』といいましたが、まことにその通りです。」
… こちらは孟子の言葉ではなく、『論語』にも出てくる陽虎(ようこ)の言葉を引用しています。この陽虎は孔子を召し抱えようとしますが、孔子に体よく断られた政治家です。
渋沢栄一が「もとより敬服すべき人物ではないが、当時にありては智言として一般から認められていたのである。(4-5)」と言ってるように、古の学者が往々誤解していた悪しき例として引用されています。
※『論語と算盤』3-6に引用された「人のためを計る~」は孟子の言葉として紹介されていますが、『孟子』内で見つける事ができませんでした。(引用としては、一応カウントに入れているのでご留意お願いします。)
おまけ:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』に引用された『論語』『孟子』の名言
『論語と算盤』の引用繋がりで、ここからは『青天を衝け(せいてんをつけ)』の引用箇所もまとめておきます。『青天を衝け』は、2011年のNHK大河ドラマです。
2019年に新1万円札の肖像に渋沢栄一が選ばれた事で注目も集まり、この全41回の放送では平均視聴率14.1%を記録しました。(ドラマの詳細については、2011年NHK大河ドラマ『青天を衝け』のまとめ記事へ)
調べてみると、やはりこのドラマでも所々に『論語』や『孟子』の引用がされていました。
『論語』の引用(5点)
ドラマは全てリアルタイムで視聴していましたが、そこまで『論語』を引用しないんだなと感じていました。… しかしながら、改めてランキング化してみると、当時の記憶よりかは多かった印象を受けた次第です。
『論語』の引用ランキング(章) | 『青天を衝け』の箇所 | ||
2回 | 里仁第四 / 4-5 | 富と貴きとは | 第19回, 第33回 |
2回 | 衛霊公第十五 / 15-30 | 過ちて改めざる | 第26回, 第31回 |
1回 | 為政第二 / 2-24 | 義を見てせざるは | 第2回 |
1回 | 里仁第四 / 4-24 | 言に訥にして | 第3回 |
1回 | 衛霊公第十五 / 51-24 | 己の欲せざる所 | 第40回 |
ドラマからなので、前後のセリフも合わせて引用いたします。時系列順に並べたので、視聴された方は名シーンが思い出されるかもですね ?!
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ①
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『論語』岩波文庫版
・第2回「栄一、踊る」より
栄一「だって おいちゃんも 村の祭りは大事だと言ったじゃねぇか!大事とわかってんのにやんねぇのは 「義を見てせざるは、勇無きなり」だ!」
◇ 引用元(『論語』為政第二の二十四)
書下し文「(前略)義を見て為ざるは、勇なきなり。」
訳文「(前略)行うべきことを前にしながら行わないのは、臆病ものである。〔ためらって決心がつなかないのだから。〕」
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ②
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『論語』岩波文庫版
・第3回「栄一、仕事はじめ」より
千代「「論語」の里仁篇… 24章目かね。「子曰く、君子は言に訥にして行いに敏ならんことを欲す」というのが、どういうことを言ってるんかおしえてもらえないでしょうか」
◇ 引用元(『論語』里仁第四の二十四)
書下し文「子の曰わく、君子は言に訥(とつ)にして、行に敏ならんと欲す」
訳文「先生がいわれた、「君子は口を重くして、実践につとめるようにありたいと望む。」
『論語と算盤』でも最多3回の引用がされた、里仁第四の五「富と貴きとはこれ人の欲する所なり」が『青天を衝け』でも2回引用されています。
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ③
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『論語』岩波文庫版
・第19回「勘定組頭 渋沢篤太夫」より
栄一「はぁ… まぁ つまり…「子曰く 富と貴きとは これ人の欲する所なり その道を以て これを得ざれば 処らざるなり」仁をもって得た利ではなくては意味を為さねぇ。」
・第33回「論語と算盤」より
栄一「「子曰く 富と貴きとは 是れ人の欲する所なり。」(以下略)」
千代「「論語」でございますか?」
栄一「あぁ。」
◇ 引用元(『論語』里仁第四の五)
前述の「『論語と算盤』での引用 ②」を参照してください
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ④
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『論語』岩波文庫版
・第26回「篤太夫、再会する」より
栄一「あ~ また一から出直しだ。どうなるんだんべなぁ。」
うた「「あやまちて あらためざる。これをあやまちという」。」
栄一「うた 孔子様の言葉 覚えてんのか?」
うた「へぇ」
・第31回「栄一、最後の変身」より
栄一「お千代。俺は… 大蔵省を辞める。」
千代「え?」
栄一「「過ちて改めざる これを過ちという」。」
◇ 引用元(『論語』衛霊公第十五の三十)
書下し文「子の曰わく、過ちて改めざる、是れを過ちと謂う。」
訳文「先生がいわれた、「過ちをしても改めない、これを〔本当の〕過ちというのだ。」
最後の引用は、第41回の最終回前に、SNSでも共感の声が多く挙がったアメリカでの演説シーンからです。
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ➄
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『論語』岩波文庫版
・第40回「栄一、海を越えて」より
栄一「日本には「己の欲せざる所 人に施すなかれ」という 忠恕の教えが広く知れ渡っています。互いが嫌がることをするのではなく 目を見て 心開いて 手を結び みんなが幸せになる世を作る。私はこれを 世界の信条にしたいのです。」
◇ 引用元(『論語』衛霊公第十五の二十四)
書下し文「子貢問うて曰く、一言にして以て終身これを行うべき者ありや。子の曰わく、其れ恕か。己の欲せざる所、人に施すこと勿れ。」
訳文「子貢(しこう)がおたずねしていった、「ひとことだけで一生行っていけるということがありましょうか。」先生は言われた、「まぁ如(思いやり)だね。自分の望まないことは人にしむけないことだ。」
ここで「恕(じょ)」という言葉が出てきました。「恕」は前述の「仁(じん)」と同じく、『論語』の中心的な概念です。
「己の欲せざる所、人に施すこと勿れ(自分の望まないことは人にしむけないことだ)」は、『論語』全512章句の中でも大変有名な言葉です。
「恕」については、こちらの章句以外にも『論語』里仁第四の十五にて、孔子が「わが道は一つのことで貫かれている(忠恕のまごころ)」と言った章句も広く知られています。
『孟子』の引用(1点)
私が調べた限りですが、ドラマ本編中に『孟子』の引用は見つけられませんでした…
ところが、先ほどの『青天を衝け』メインビジュアルをよく眺めてみると、『孟子』の引用があったりします。笑
『孟子』の引用ランキング | 『青天を衝け』の箇所 | ||
1回 | 梁惠王章句上 / 1-5 | 仁者は敵なし | メインビジュアル(前半) |
この「仁なる者に、敵は無し」は、『孟子』からの引用です。
◆ 2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』での引用 ⑥
引用:2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』, 『孟子』岩波文庫版
・『青天を衝け』メインビジュアル(前半)
◇ 引用元(『孟子』梁惠王章句上の五)
書下し文「(前略)〔諺には〕仁者は敵なしといえり。王請う疑うこと勿れ。」
訳文「(前略)諺にある『仁者に敵なし』とは、つまりこのことをいったものです。王様、どうか私の申すことをお疑いなさいますな。」
ドラマ全編で描かれている渋沢栄一を表す形容として、これ以上ふさわしい言葉も無いのでは… と感心したものです。
(渋沢栄一は生前よく色紙に「仁者無敵」と揮ごうしていたとも伝わっています)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。渋沢栄一を知ろうと『論語と算盤』や『青天を衝け』に触れたら、次に『論語』や『孟子』が気になるのでは?と、この記事をまとめた次第です。
ちょっとマニアックな内容でしたが、渋沢栄一ファンも増えてきたので誰かのお役に立てたら幸いです。
来年(2024年上期)からいよいよ、新1万円札の流通が始まります。渋沢栄一を通して、日本の商道徳も向上してくれることを願ってやみません。